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明日~右手の夢~ [ちょっと長めの物語]

はじめに。。。
このお話は、以前ここに載せさせて頂いた「右手の夢」というお話を
ちょっとだけ、改稿した作品です。

投稿用に、エピソードを少し足したので
ブログ用としては、だいぶ長くなってしまいましたが
どうぞ、ご容赦くださいませ。。。

なんと、原稿用紙換算すると
20枚越え。。。。・゚・(*/□\*)・゚・。

読み疲れてしまわれるかもしれません。。。
ごめんなさい
最初に、謝っちゃいます。

お忙しい方は、スルーして頂いて大丈夫です。
それでも、読んでくださる方。。。

感謝、感謝、感謝です。。。

我儘にお休みして
また、我儘に戻ってきました。。。
自分勝手な私ですが
どうぞよろしくお願いいたします。。。
  
     春待ち りこ


image65.gif



『明日~右手の夢~』


◎三嶽 涼◎
 
「今度こそ、優勝出来ますように。」

両手を合わせて祈る
もう、神頼みしか方法が思い浮かばない
効果があるかどうかはわからなかったが
僕は真剣に祈った
今日は、スイーツコンテスト『ジャパンカップ』の最終日
決勝まで残った五人で優勝を争う

これまでのコンテストでは、僕はいつも準優勝ばかり
人一倍頑張っているのに。。。どうして?
いや、理由はわかっている。
僕のスイーツは、面白くないのだ
前回のコンテストでも、審査員の先生に酷評された
 
「けなすところが見つからない。
 完璧だから、どこかつまらない。
 スイーツと言うのはね、言うなればときめきだ。
 君のスイーツは、確かに美しいし美味しい。
 ただ、感動に欠けるんだよ。
 優勝した海斗君のスイーツは、
 雑なところもあるのだけれど
 未完成の魅力とでも言おうか、そんなものがある。
 そこがまた、人を感動させるんだな。
 テクニックは、確かに君の方が上なんだけどね。」

言ってることは、わからなくもない
けれどそれじゃあ、どこをどう直せばいいのか
まるでわからないよな

でも、僕には決心していることがあるんだ
今度のコンテストで優勝出来たら
美鈴にプロポーズをする
そして、それが叶ったら
2人でケーキ屋さんを開くんだ
だから、今度こそ、何がなんでも優勝しなきゃ

気が向いて、神社でおみくじを引いてみた
なんと。。。凶

思いがけないことの連続
大きな試練の時。。。だって

マジかっ
今回もまた、優勝出来ないのかな
ちょっと弱気になりながら
コンテスト会場へ向かおうと
横断歩道に一歩踏み出した
その時。。。
激しい衝撃と共に
僕の身体が宙に浮かんだ
固い地面に叩きつけられる
右手が。。。
やけに暖かくなった
ふと見ると
僕の右手は真っ赤な夕焼けより
もっと真っ赤に染まっていた。。。

 
 ◎村瀬 隆◎

あの日は、とても疲れていた
急ぎの仕事が入ってしまって
前の晩から一睡もせずに
トラックを運転し続けていたから
いや、そんなこと何の言い訳にもならない

居眠り運転。。。

ほんの一瞬だけ、意識が飛んでしまった
気付いたら、目の前に人がいた
慌ててブレーキを踏んだが間に合わない
ゴンっと鈍い音がする

俺は。。。人を轢いてしまった

すぐに、救急車を呼んだ
警察もやってきた
倒れている青年の右手は
血で真っ赤に染まっていた

あとのことは、実はよく覚えていない
血で染まった彼の手が
俺の心を完全に握りつぶして。。。
それはまるで、悪夢のようだった
長距離トラックの運転手になって十五年
今まで、一度だって事故など起こしたことはない
それが、人身事故。。。
何てことをしてしまったのだろう

俺の轢いてしまった青年は
パティシエだそうだ
それも、コンテストに入賞するような
腕のいいパティシエ
彼の右手を潰してしまったということは
彼の将来も潰してしまったということだ
取り返しのつかないことをしてしまった

俺は、一生をかけて
償ってゆくことを心に誓った。。。


 ◎三嶽 涼◎

コンテスト当日の交通事故
もちろん、出場することは出来なかった
それどころじゃない
僕の右手は、ほとんど動かない

もう、ケーキなんてやけないよ。。。

こらえてもこらえても
涙が溢れて止まらない
どうしてこんなことになったのだろう

美鈴は毎日、お見舞いに来てくれた
その優しさが唯一の支え
それでも、僕の気持ちが晴れることはない

僕を轢いたトラックの運転手
居眠り運転だったらしい
僕は、奴を許さない
僕の右手も夢も将来も
全部奪った男

何度もお見舞いに来ているらしいけど
とても会う気になれない
もしも今、奴にあったら。。。
僕は奴を殺してしまうかもしれない

もっとも。。。

この動かない右手では
ナイフひとつも握れはしないよな。。。

そう思ったら、また泣けてきた


 ◎村瀬 隆◎

あの青年はまだ、一度も俺に会ってはくれない
とりあえず毎月、お金を送り続けている
飢えない程度の生活費を除いた出来る限りの額
どんなにお金を送ったところで
俺のしてしまったことが許されないのはわかってる
けれど、それしか償う方法が見つからない
毎日がとても辛い
せめて、会って直接謝ることが出来たら
少しは楽になれるのだろうか。。。

いやいや。。。
俺は何を考えているのだろう
楽になることなんか考えちゃいけない
そんなこと、許されるわけがない
それだけのことを。。。
俺はしてしまったのだから


 ◎三嶽 涼◎

僕は、宙に浮かんでいた
下を見下ろすとそこには
もう一人の僕が地べたに座り込んでいる

あぁ。。。夢を見ているんだな。。。

僕が僕を見下ろすなんて状況
そうでもなければ説明がつかない

夢の中の僕は、右手を
以前のようにしっかり動かしていた
夢だとわかっているのになぜか
ほっとした
そのうち、もう一人の僕は
ふっと立ち上がる
その右手に、何か持っていた

あれは。。。ナイフだ

その時、すぐにわかった
僕はあの男を
僕を轢いたトラックの運転手を
殺しに行こうとしているんだ

事故以来、ずっとずっと
あの男を憎み続けていた
医師は、リハビリをすれば
日常生活くらいなら
普通に送れるようになるはずだと言った
でも、僕は細かい作業の出来る
元の右手に戻して欲しいと願っていた
そうでなければ
昔のようなケーキを焼くことは出来ないからだ
細部までこだわるケーキを作るのが、僕の夢
だが、その真実を突き付けられたとき
僕の右手の夢は砕けた
リハビリを積極的にする気すら失せてしまった
そして、ただただ。。。
こんな身体にしたあの男を恨んだ

でも、待てよ。。。
あそこにいる僕の右手は動いている
せっかく動いている右手を
人殺しのために使うのか?
 
心の中に違和感が生まれる
だって、もう一人の僕の右手は
ケーキが焼ける右手なのに。。。


 ◎村瀬 隆◎

俺は、逃げていた
追ってくるのは、血で真っ赤に染まった右手
でも、あの右手を赤く染めてしまったのは
他でもない、この俺だ
そう思ったら、動けなくなった
逃げてはいけない。。。
右手はすぐに俺に追いつき
そして、俺の首を絞め始める
死んでも構わないと思った
そのほうが、楽になれると。。。
首を絞めつけられる苦しさで
俺は、目を覚ました

「ふっ、夢か。」

俺は生きていた
そうだよな。。。
簡単に楽になったりしてはいけない
俺はこの苦しさを背負って
生きていくしかないのだ
当たり前だ
罪を犯してしまった俺への
これは当然の罰

さぁ、今日もしっかり働こう
俺の時間を少しでも多くのお金に換えて
あの青年に送ること
今の俺に出来るのは
それくらいしか無いのだから。。。


 ◎三嶽 涼◎

今日は、再出発の日
天気は晴れ
お日さまも僕の門出を祝ってくれているようだ
僕の焼いたケーキを美鈴が
ショーウィンドーに並べている

やっと、この日を迎えることが出来た

ここまで来るのに、五年かかった
最初は暗闇の中を絶望と一緒に
彷徨うだけの日々
思うように動いてくれない右手を見つめながら
僕をこんな身体にしたあの運転手を
殺してやりたいほど憎んだ

憎んで。。。憎んで。。。憎んで。。。

でもさ、憎しみだけで暮らすには
人生は長すぎた
毎日毎日、笑わなくなった僕に
美鈴は明日の話をし続けたんだ

「明日は、晴れるかなぁ。」

ある日、美鈴がそう呟いた
その時僕は、明日の天気なんて
どうでも良いと思っていた
黙ったままの僕にはおかまいなしで
美鈴は、明日の話を続ける

「明日晴れたらさ、
 洗濯物がよく乾くよ。
 この病院の屋上には
 おっきな物干しがあってさ。
 晴れた日にそこで洗濯物をほしてると
 宇宙が私の味方をしてくれてるんだなって思うのよ
 洗濯物を乾かしたいと思ってる私のために
 お日さまの光をたくさんプレゼントしてくれるなんて
 宇宙に感謝したくなるでしょ。」

「ぷっ」

僕は思わず、吹き出してしまった
事故後の初めての僕の笑顔は
こんな他愛もない美鈴の明日の話から
思わずこぼれ出たものだったんだ

「あっ、笑ったわね
 どうせまた、大げさな女だって思ったんでしょ。
 でもいいの。
 だって、ほんとにそう感じるんだもん。
 宇宙を味方につけるなんて私って
 実は、凄いんじゃないかな。。。
 なぁんて思うと、ちょっといい気分よ。」

「美鈴って、まったく、どうして。。。」

あとは、もう言葉にならず
僕はなぜか、泣き出してしまった
あの時の気持ちは、なんて言ったらいいのか
今でもよくわからない
美鈴には、不思議な魅力があった
こんなふうに天気がいいというだけで
宇宙が味方してくれてると感じる人は
そう多くはいないんじゃないかな
でも、彼女はいつもそんなふうに明日を
そして、未来を語る
僕の右手が動こうが動かなくなろうが
そんなことは関係なく
美鈴の前には、いつも輝く未来があった
そしてその輝く明日は、もしかしたら。。。
右手の動かなくなった僕にも掴めるかもしれない
と思うくらい近いところで
確かにキラキラ輝いているのだ

たとえば、明日が晴れたとしよう
僕は、この憎しみだけの世界から
たった一歩だけ踏み出して
美鈴と一緒に屋上へ上がる
そしたら、それだけで
宇宙を味方につけたすっごい美鈴の
抜けるような輝く笑顔に出会えるだろう
そして、そんな笑顔に出会えるかもしれない僕の
。。。僕の明日も案外。。。
捨てたもんじゃないのかもしれない

初めて、憎しみ以外の感情が
心の奥に芽生えていた
僕の未来が、始まったのだ

それからは、美鈴と共に
僕も毎日、明日の話をした
気分もだいぶ軽くなって、リハビリも順調に進む
僕の右手は、少しずつだが確実に
動くようになっていった
もちろん、昔のように繊細なお菓子作りは無理
そのことは、自分でもよくわかっていた
それは、やっと笑えるようになった僕の心に残る
晴れることのない闇。。。

「ねぇ、久しぶりに涼くんの作った
 スイーツが食べたいんだけど。」

突然、美鈴がびっくりする事を言い出した

「えっ。そんなの無理に決まってるだろ。」

いったいどんなつもりでこんなことを言うのだろう
戸惑っている僕に美鈴は、こんなふうに言ったんだ

「何もコンテストで優勝するような
 スイーツが食べたいわけじゃないのよ。
 涼くんの作ったものなら何でもいいの。
 まだ出来ないことがあるなら
 言ってくれれば、私が手伝うわ。
 実はね。。。
 中学の時に涼くんが初めて作ってくれたクッキー
 あの焦げたクッキーが、今まで食べた
 どんなスイーツよりも美味しかったって思っているのよ。
 なんでかな。。。
 きっと、懸命に作ってくれた想いが
 隠し味になったんだよね。
 こんなことを言うと完璧主義の涼くんは
 怒るかもしれないけど。。。」

「完璧主義?
 僕は、完璧なんかじゃないよ。」

「よかったぁ。
 だったら作ってくれるわよね。
 焦げたクッキー。」

「無理に焦がすのは、やっぱり嫌だけどね。
 美鈴のためなら、挑戦してみるか。」

そうして僕はまた
スイーツを作る決心をしたんだ。。。


 ◎村瀬 隆◎

今日、ポストに一通の手紙が届いていた
差出人の名前を見て驚く
三嶽 涼。。。
あの青年の名前だ
俺が轢いてしまったあの青年
便箋には。。。
「お待ちしています。」
の言葉の後に、日時と場所が記されている
あの事故から五年
彼から手紙がくるなんて思ってもみなかった
あの青年が来いと言うのなら
どこへでも行こう
それがたとえ。。。
地獄であっても。。。だ


 ◎三嶽 涼◎

僕は、店の開店日に彼を招待した
僕が憎んで憎んで
殺してやりたいとまで思っていた
僕を轢いたトラックの運転手
あれから、五年間
彼は毎月、僕にお金を送り続けてきた
噂で聞いた話だと彼はこのお金を送るために
昼も夜もなく働いているらしい
おそらくそれが、彼なりの罪の償い方なのだろう
だから。。。
僕は彼を招待したんだ
僕はもう、彼を憎んだりしていない
それをわかってもらうため
そして、もう送金はしなくていいって
直接会って、話したかった


 ◎村瀬 隆◎

あの青年に会うために俺は
地図に記された場所へ向かった
 
 『トゥモロウ』

そう書かれた看板が俺を迎えた
ケーキ屋?
俺はちょっと緊張しながら
その店の中へ足を踏み入れた


 ◎三嶽 涼◎

僕の前に現れたその人は
とてもみすぼらしい身なりをしていた
頬は痩せこけ、身体もガリガリ
充分に栄養が足りているとは
とても思えない
手も荒れ放題で、おまけに爪は
真っ黒に染まっている
彼がそんな姿である理由を僕は知っている
あの事故から五年。。。
僕の口座に今も彼からの送金は続いている
毎月毎月。。。途切れたことは一度もない
金額は、びっくりするほど多くて
そのお金を稼ぎ出すために彼が
かなりの無理をしているだろうことは
想像が出来た

だけど。。。

僕は知らないふりをしたんだ
お金にも、最初は手をつけなかった
彼の稼いだお金など、使いたくはなかったから
彼を許すつもりは、毛頭なくて
ただ。。。
苦しんでくれればいいと思っていた
僕の夢を奪ったのだから
苦しんで当たり前だと
僕は自分の明日とはぐれたあの日
人の心すら見失ってしまったんだ

でも、今ならはっきりわかる
彼がどんな気持ちで
この五年間を過ごしてきたのか
僕が絶望と暮らしたあの時間は
彼にとっても地獄のような日々だったことだろう
罪の意識に苛まれながら
何度、眠れぬ夜を過ごしたのだろうか

僕には美鈴がいた
美鈴は僕に、明日の話をしてくれた
飽きもせず。。。懲りもせず。。。
毎日毎日。。。
僕の時間が動き出すまでずっと
そうしてやっと、僕は今ここにいる
あの頃の僕の時間を動かすなんてことは
たぶん、美鈴にしか出来なかった

だからこそ思うんだ。。。

僕の目の前で、罪の意識に潰されそうになりながら
それでもここへ。。。
僕の所へやって来てくれた
彼の時間を動かしてあげられるのは
おそらく、僕だけじゃないかって。。。

実は、この店をオープン出来たのは
彼の送り続けてくれたお金があったからこそだった
この店の半分は、彼のものだと言ってもいい
だったら。。。
僕は、たった今思いついたこの考えを
彼に提案してみることにした
彼にとっては、恐ろしく迷惑な事。。。
かもしれないけれど


 ◎村瀬 隆◎

「本当に申し訳ありませんでした。」

そう言って、深く頭を下げることしか
俺には出来なかった
許されようなんて思っていない
許されるはずもない
俺が奪ったのは、彼の未来なのだ

「どうか、頭をあげてください。
 僕があなたをここに呼んだのは
 謝ってもらうためなんかじゃないんですよ。
 見てもらいたかったんです。
 僕の新しい夢。」

下げた頭をゆっくりあげる
するとそこに。。。
俺は信じられないものを見た
激しく責められる覚悟をしてきたこの俺を
満面の笑みで迎えてくれている
。。。あの青年の姿

「あのですね。。。
 僕なりにいろいろ考えたんですが
 聞いていただけますか?
 あなたに『事故のことは忘れてください。』
 と言っても、聞いてくれそうもない。
 『もう、お金はいらないです。』
 と言っても、たぶん。。。
 あなたは送金をやめないでしょう。
 かと言って、あなたが生活費を切り詰めてまで
 お金を送ってくれるのを
 僕だって、知らん顔はしていられない。
 そこで、提案なんですが
 このお店を手伝ってもらえませんか?
 この先まだ、どうなるかわかりません。
 給料だって、安いですし
 もしかしたら払えない時もあるかもしれない。
 それでも、あなたに手伝って欲しい。
 僕に今、必要なのは
 お金よりもむしろ、労働力なんです。
 僕の右手では
 上手くケーキを運べそうもないので
 力になってもらえませんか?
 もちろん、あなたがこういう仕事を
 嫌でなければ。。。ですが。」

今まで、会うことすら叶わなかったこの青年の
あまりに意外な提案に、俺は面食らった

「俺に、ここで働けと?」

どういうことになるのか
それは俺にもわからなかったが
彼がそれを望むなら
俺に断る権利などあるはずもない

「わかりました。お世話になります。」

俺はもう一度、彼に深々と頭を下げた


 ◎山崎 直人◎

「おぉ、ここだ。
 それにしても、ネーミングセンスは
 ゼロだな。。。
 『トゥモロウ』って
 これでは何屋かわからんぞ。
 でもまぁ、問題は味だからな。」

美味しいケーキがある
そう聞けば、どうしても食べたくなる
それが私の性分だった
最近、ネットの口コミで話題の店
ここのケーキは、メチャ旨いらしい

二十年前。。。
私がパティシエという職業を選んだのは
ただただ、ケーキが好きだったからだ
今まで、沢山のケーキを食べてきた
長くこの仕事を続けてきた甲斐があって
ここ何年かは、国内のスイーツコンテストの
審査員なんかもさせてもらえている
若い人たちの作るケーキもメチャメチャ旨い
あのケーキたちに点数をつけるのは
はっきり言って、難しい
本選に残っているパティシエは
みんな甲乙つけがたいほど美味しいケーキを作る
言うなれば。。。
彼らは選ばれた天才たちなのだ
どのケーキもまずいはずがなかった
それでも、評価をつけなくてはならない
だから私は、ときめきで勝敗を決めることにしている
スイーツでどれだけときめきを感じられるか。。。
根本的にはそこだ
技術も必要だが、どれほど調和のとれた味でも
見事な細工でも、ときめかなければそれまで
スイーツとはそういうものだ。。。
っと言うのが私の持論

「ようこそいらっしゃいませ。」

店に入ると、痩せ気味のウエイターが迎えてくれた
ケーキは持ち帰ることも
ここで食べてゆくことも出来るのだという
カフェスペースには、落ち着いた気取らない感じの
テーブルとイスが並べられていた
コーヒーのいい香りも漂っている

よし、決めた

私は、店内でケーキを頂くことにした
ウエイターが丁寧に席へと案内してくれる

うん。。。店の雰囲気は悪くない

いちごショートとコーヒーを注文する
あまり、凝ったケーキは作っていないらしい
メニューもそう多くはなかった
間もなく、ケーキが運ばれてきた
見た目は。。。オーソドックスなものだ
でも、どこか不思議な魅力がある

早く食べたい!!!

そんな感覚に襲われた
テーブルにケーキが置かれると
すぐさま一口、口に運ぶ
すると。。。

なんてことだ!こんなことって。。。

その衝撃に私は戸惑っていた

「君、ちょっといいかな。
 パティシエを。。。
 このケーキを焼いたパティシエを
 ここに呼んでもらえないだろうか。」

ウエイターにそう頼んだ
私の舌は、この味を覚えていた
この味を出せるのは、世の中がいくら広いと言っても
彼しかいない
こんな所で、この味に出会えるなんて。。。
しかも、あの頃の彼のケーキとは明らかに違う
違うんだ。。。


 ◎三嶽 涼◎

「涼さん、忙しいところすみません。
 お客様がパティシエを呼んで欲しいと
 おっしゃられていますが。。。」

村瀬さんが厨房に来て、そう言った
最近、ようやく軌道に乗り出したこの店
厨房は、ネコの手も借りたいようなありさま
けれど、お客様の意見を聞けるのは有難いことだ

「わかった。すぐ行くよ。」

僕は、そう答えた

客席に座っていたのは、見覚えのある顔
そう。。。
以前のコンテストで僕を酷評した審査員で
スイーツ界の大物。。。山崎 直人先生

あちゃ~。。。
また、酷評されるのかな

まぁ、仕方がない
今の僕に出来るのは、どうやったってこのレベル
もう、何とでも言ってくれ!!!

「山崎先生、お久しぶりです。
 よくおいでくださいました。」

「やっぱり君か。三嶽 涼。。。
 そうだと思ったよ。
 けれど、君は確か、交通事故にあって
 再起不能だと聞いたんだが
 あれは、デマだったか。」

「いえ、交通事故にあったのは本当です。
 大怪我をして、お菓子作りも諦めかけたんですけど
 みんなに支えられて、ようやくお店を持つことが出来ました。
 ただ。。。
 昔のように細かい作業は出来ません。
 味も変わってしまいました。
 正直、これが今の僕の精一杯なんです。
 それでも、こんな僕のケーキを喜んでくださる
 そんなお客様がいらっしゃる。
 それでなんとか、明日もケーキを焼こうと
 思えるようになったんです。
 今出来る精一杯の想いを込めて。。。」

「そうか、苦労したんだね。
 でもね、君は一つだけ大きな勘違いをしているよ。
 確かにこのケーキは、前に食べた君のケーキの味とは違う。
 だって、格段に美味しくなっているからな。」

「えっ?」

僕は一瞬、何を言われているのかよくわからなかった

「だからね、君のケーキは以前より
 美味しいって言っているんだよ。
 このケーキを食べるとね、心がときめくんだ。
 前にも言ったろ。
 スイーツは、ときめき勝負だって。」

「はぁ。。。どういうことでしょう。
 前より、形も悪いし、細かい細工もしてないし
 味だってかなり大雑把になってしまっている
 と思うのですが。。。」

「そう、それだよ。
 君は完璧になり過ぎていた。
 人の味覚なんて、それほど完璧なものじゃない。
 腕のいい料理人が作った料理より
 母親の手料理のほうが、ほっとしたり
 好きな人の焼いてくれたクッキーが
 宝物の味になることだってある。
 たとえ、それが焦げたクッキーだったとしてもだ。」

山崎先生が突然、こんなことを言ったので
思わず僕は、赤面してしまった

美鈴の焦げたクッキーの話。。。

知ってるわけじゃないよな
知るわけないか。。。

「それは、何となくわかりますが
 でも、家族ならともかく
 見も知らない僕が焼いているんですよ。」

「うん、そうさ。でもね。
 クリームもスポンジもどこか懐かしい手作り感に溢れている。
 それでいて、決して素人には出せないプロの職人の味だ。
 形だって、君が言うほど悪くない。
 こんなことを言うのはなんだが
 前に君が作ったケーキは、アートとしては
 一級品だったのかもしれない。
 けれどそれゆえに、どこから食べていいのか困ったくらいだ。
 このケーキは、思わず口に運びたくなる。
 そういう魅力を持った形をしているよ。
 そして、文句なく旨い。泣きたいほど、美味しいよ。
 事故は不運な事だったけれど。。。
 こと、お菓子作りに関してだけ言うのであれば
 君は、君を轢いた人に感謝すべきだ。
 こんなことを言うべきではないとわかっている。
 君は怒るかもしれないが。。。それでも。。。
 私は感謝しているよ。君を轢いてくれた人に。
 だって、私がこのケーキに出会えたのは
 その人のおかげってことだろ。
 よくぞ、轢いてくれましたって言いたいくらいだ。」

「よくぞ?」

「い、いや、すまない。
 君は、大変な思いをしたんだったね。
 ただ、それくらいこのケーキは
 美味しいってことだよ。」

いくらなんだって、轢いた人に感謝するって。。。
まぁ、山崎先生には、悪気はないのだろう
口は悪いけど、正直な人だ
それに、そんなこと言われなくても僕はもう
感謝しているんだ
この店が開けたのも村瀬さんのおかげ
ケーキが美味しくなった?のも村瀬さんのおかげ

なぁんだ。。。
みんな、村瀬さんのおかげだ

ちょっと変な気分だな
でも、それが真実

「それなら、あのウエイターにお礼を言って下さいますか?
 実は、彼が僕を轢いてくれた人なんです。」

僕はそう言って、村瀬さんを指差した

「えっ、そうなの?あのウエイターが?
 そっか。。。彼がケーキの恩人かぁ。」

ケーキの恩人?

「ぷっ」

僕は思わず、吹き出した
とても清々しい気分だった
今までの辛い時間が全て報われた気がした
人生、悪いことばかりじゃない
何が幸運かなんて、あとになってみないとわからないもんだ

僕はふと、村瀬さんの方を見た
僕たちの話を店の隅で聞いていた村瀬さんは
俯きながら泣いている
これで、村瀬さんの心の傷が、少しでも癒えてくれたらいいなぁ
そして。。。
僕は、明日もケーキを焼こうと思った
少しくらい形が悪くても、味が大雑把でも
ときめくケーキを焼いてやろう
美鈴が宇宙を味方につけて、洗濯物を干している間に

そのあと、みんなで笑いあえるといい
僕のケーキを囲んで、明日の話でもしながらさ
僕が諦めかけていた「右手の夢」は
形を変えながらもずっと成長してきたんだね
そして、ほら。。。
今こうして、不器用になってしまった僕の右手が
しっかりと握りしめているよ

もう、離したりするもんか。。。


 ◎山崎 直人◎

私は、とある雑誌社の依頼で
お勧めのケーキ店の紹介文を書くことになった
どの店を紹介するかは、もう決めていた
パソコンを立ち上げて、文章を打ち始める
でも。。。なんて書けばいいのだろうか
あの味をどうすれば、伝えられるのか
しばらく考えたが、思い浮かばない
そこで、ちょっとミステリアスな文章で仕上げてみることにした
読んだ人の興味を引くだけでいい
味の方は、食べてもらえばわかるのだ
そして、一度食べたら
食べてしまったのなら。。。
明日もまた、食べたくなる
あの店のケーキは、そういうケーキなのだから。。。


  ☆  ☆  ☆

『町はずれの小高い丘の上に
 「トゥモロウ」という名の小さなケーキ屋がある。
 オーナーは交通事故にあい、右手が少し不自由だ。
 だが、彼の焼くケーキの味は、ピカイチ!
 
 彼の奥さんは、笑顔の似合う可愛い人
 どうやら、宇宙が味方するほど魅力的な人らしい。
 そして、ウエイターは。。。
 ケーキ屋の店員とは思えないほど痩せているが
 生真面目で、正直な人。
 実は。。。この人こそ私の「ケーキの恩人」
 聞くところによると、ここのケーキの半分は
 この人のおかげで成り立っているそうだ。
 っで。。。結局のところ、何が言いたいのかといえば
 ここのケーキは旨い!!!
 その一言に尽きる。
 どうか一度、食べてみてほしい。
 私が今まで食べたどのケーキより
 美味しいことだけは間違いない。

 オーナーの言葉を借りれば
 ここのケーキは、オーナーの「右手の夢」なんだそうだ。
 「出来れば、明日の話をしながらお召し上がりください。」
 とのこと。
 オーナーの言葉もよくわからないが。。。
 とにかく、味だけは。。。
 この私が保証する!!!』

      山崎 直人
MB900038670.JPG               
               おしまい

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仔猫の恩返し [ちょっと長めの物語]

MB900426282.JPG
少年は、川沿いの道を歩いていた
ふと、川の方に目を向けると
仔猫が川に流されているのが見える
少年は、思わず川に飛び込んでその仔猫を助けだす
びしょ濡れのまま川岸の小石の上に座り込んで
仔猫をなでながら。。。つぶやいた
MB900426032.JPG
「本当に危ないところだったね。
 助かってよかった。」

すると仔猫は。。。ニャーと。。。言わずに
こんなことを言ったんだ

「ありがとう。。。
 おかげで命拾いをしました。
 お礼にあなたの願いを三つだけかなえてあげましょう。
 私はただの猫ではないのです。
 神様の使いとでも言いましょうか。。。
 もっとも、川で溺れるくらいだから
 たいしたことは出来ないのですが
 あなたの願いを叶える力くらいならありますよ。」

「えっ?願い事。。。
 急に言われてもなぁ。。。
 思い浮かばないよ。
 お礼をしてもらいたくて
 助けたわけじゃないし
 別に。。。何もいらないから。
 もう川で溺れないでくれよ。」

仔猫はちょっとびっくりした顔をした

「人間というのはみんな、欲深いものだとばかり思っていました。
 あなたみたいな人もいるんですね。
 わかりました。今すぐにとは言いません。
 あなたが死ぬまでの間に
 もしも願い事が出来たなら、私を呼んでください。
 その時、お礼をさせていただきます。
 本当にありがとうございました。
 びしょ濡れになってしまいましたね。
 どうか、お風邪などをひかれませんように。」

それだけ言うと
仔猫は、どこかへ去って行った

そのあと、少年は
願い事のことなどすっかり忘れてしまった

そのまま月日は。。。流れていく
MB900355075.JPG
少年は、青年になっていた
ここは、真っ白い壁に囲まれた病室のベッドの上
青年は、青白い顔をしながら
ただただ、痛みと闘っている
ベッドの横では
青年の母親が心配そうに青年を見守っていた

1年前。。。
青年は病魔に侵された
現代の医学では治しようもない
不治の病というやつだ
病気の進行は早く
青年には時間がなかった
病気は痛みを伴うものだったが
青年は、必死にその痛みと闘っていた
弱音は吐かなかった
恨み言も言わなかった
ただ。。。その運命を
全身の痛みと共に受け取り
闘い続けていた
この一年。。。
青年は精一杯生きていた

青年の母親は
青年以上にやつれていた
息子の苦しむ姿を見守ることしかできない自分が辛かった
代われるものなら、代わってやりたい
いくらそう思っても、決してそうはならないこと
それが、何よりも悔しかった
母親は、ひそかに決めていた
息子を一人で逝かせはしないと。。。
もしものことがあれば。。。私も一緒にと。。。

口にこそ出さなかったが
青年は、母親のそんな思いを
なんとなく感じとっていた

だからまだ、死ぬわけにはいかない。。。

何度も死の淵をさまよいながら
青年はそれでも生きた
それは、母親のためでもあった
だが、青年の頑張りも。。。
そろそろ限界が近づいている

ある日、青年は夢を見た。。。
懐かしい夢だ
少年の頃。。。川で溺れていた仔猫を助けたこと
そのあと仔猫が言った。。。あの言葉も

青年はあの仔猫を呼んでみようと思った
実は、今までも何度か
仔猫を呼ぼうとした事があった
でも、呼ばなかった
いや。。。呼べなかったのだ

しかし、もう青年には時間がない
これが、ラストチャンスかもしれない
青年は、そう思った。。。

仔猫は、すぐに現れた
しかも、あれから随分と時間がたっているのに
あの時のまんまの仔猫の姿
MB900426032.JPG
「私を呼びましたか?
 やっと願い事が決まったみたいですね。
 さぁ、何でも言ってみてください。
 私ならあなたの病気を治すことだって出来ますよ。」

しかし、青年は首をゆっくり横に振った

「病気を治してほしいとは思ってないよ。
 これは、僕の運命だ
 もう、受け入れる覚悟は出来ている。」

「えっ?でしたら、どんな願い事ですか?」

仔猫は信じられないといった顔をする

「願い事は三つだったよね。。。」

「はい。」

「じゃあ、まずは一つ目の願いだ。
 僕を人の訪れることのない場所へ
 運んでくれないか?」

「お安い御用です。。。
 では、目を瞑っていただけますか?」

「わかった。こうか?」
 
「はい、それでは行きますよ!!!」
MB900417948.JPG
次に青年が目を開けると
目の前に広がっていたのは広い草原
どこまでもどこまでも広がるその草原は
まるで、果てなどないように思えた

「ここなら誰も来ないと思います。
 地図にさえ載っていない未開の草原ですから。
 さて、2番目の願い事は何でしょう?」

「うん。。。
 じゃあ、この痛みをとってくれる?
 この一年、ずっと痛みが続いていてさ。
 痛くない自分がどうだったか。。。
 思い出せないんだよね。」

「えっ?痛みを取るだけですか?
 何度も言いますけど
 私ならあなたの病気を治せるんですよ。
 病気が治れば、あなたはもっと生きられるし
 痛みだって消えてなくなります。
 どうせなら、病気を治しませんか?」

「それは、出来ないよ。
 僕には出来ない。
 痛みを取ってくれるだけでいいんだ。」

「いったいどうして?」

仔猫は納得できないようすだった

「あのね。病院ではさ、毎日のように誰かがいなくなる。
 元気になって退院してゆく人もいれば
 亡くなってゆく人もいる。
 亡くなってしまう人のなかには
 僕より若い人だって大勢いて
 まだ子供って場合もある。
 実はね、僕は何度か君を呼ぼうとしたことがあったんだ。
 助けたい命がたくさんあってさ。。。
 でもね、僕に助けられるのは、たった3つの命だろ。
 僕には選べなかった。
 僕には君を呼べなかった。
 あの時、決めたんだ。
 こんな時が来ても
 僕は病気を治すっていう願いだけはしないって。
 そりゃあ、僕だって生きていたい。
 でもさ、僕はこう思ったんだよね
 この世には毎日。。。
 新しい命が生まれてきている。
 誰も死ななくなったら、どうなると思う?
 食糧だって足りなくなるし
 そうなれば、殺し合いだってするかもしれない。
 それでもさらに、人が増え続けるだけだとしたら
 それこそ、人類滅亡だろ。
 だから、神様がきっと。。。選んでくれてるんだよ。
 生きるべきものと死ぬべきもの。
 長生きをする人もいれば。。。若くして死ぬ人もいる
 それは、僕らにしてみたら不公平のように感じるかもしれないけど
 本当は、この世が存続するために必要なシステムで
 それを僕たちは運命と呼んでいるんじゃないのかって。
 だったら。。。この僕の運命を
 僕は受け入れようと思うんだ。」

「そうですか。
 そんなふうに思っているのですか。。。
 わかりました。あなたの痛み、とってあげましょう。」

仔猫は、ニャーと一声鳴いた。。。
すると青年の痛みは、嘘のように消えて行った

「あっ、痛くない。。。
 痛くないよ!!!
 痛くないって、こんなに嬉しいんだね。
 こんなに幸せなんだね。ありがとう。
 本当にありがとう。」

痩せ細った青年が笑っていた
本当に幸せそうに笑っていた
仔猫は、ちょっと切ない表情を浮かべる

「さぁ、いよいよ最後の願い事ですよ。。。
 気が変わってもいいです。
 誰もあなたを責めたりしないし。。。
 あなたはちっとも悪くありません。
 だから、病気を治してください。
 だって、私にはそれが出来るんですから。。。」

仔猫が今にも泣き出しそうな声で言う

「ありがとう。
 でも僕はこれで。。。
 痛みがなくなっただけで充分幸せだよ。
 最後の願いはね。
 僕の家族から僕の記憶を全部消してほしい。
 変なお願いだと思わないでおくれ。
 あの人たちは、とても優しい人達なんだ。
 特にかあさんは、僕が死んだら自分も。。。
 なんてことを言いかねない。
 それは、どうしても嫌だ。
 僕には、強いとうさんと優しい姉さん
 そして、可愛い弟がいてね。
 僕がいなくなっても、彼らがきっと
 かあさんのことを守ってくれると思う。
 僕はこの人生で、心配ばかりかけてしまって
 苦しい想いばかりさせてしまったからね。
 もう僕のことで、かあさんも他の家族も泣かせたくない。
 こんなお願い出来るかな。」

「出来ますけど、あなたは本当にそれでいいんですか?
 あなたの生きた証。。。なくなってしまいますよ。
 それに、あなたの家族にとっても
 あなたの記憶って大切なものなんじゃないのですか?」

「うん。。。わかってる。
 わかってるんだけど、僕は
 これが一番いい方法だって思う。
 僕は、家族に笑って暮らして欲しいんだ。
 僕の生きた思い出は
 僕があの世にもっていくよ。
 大切に。。。大切にさ。
 死んだって、忘れない。忘れるもんか。
 だから、それでいいんだよ。
 お願いするよ。どうか。。。どうか」

痛みは消えていても
病気が治ったわけではなかった
それだけ言うと、青年は静かに息をひきとった

仔猫は。。。
青年の三つ目の願いを全て叶えた後で
また、どこかへ消え去った

草原は、青年の命をその身体ごと
その体内に飲み込んでいった

MB900355075.JPG


「いってきまぁす。」
「いってきます。」
「それじゃぁ、いってくるよ。」

「いってらっしゃい!!!」

家族を送り出したあと洗濯物を干す
今日は、天気がいいから
洗濯も良く乾くと思う
ちょっと嬉しい気持ちになる
さて、一休みしよう。。。
洗濯物を干してから、お茶を飲む
これが毎日の私の習慣だ

「今日は、コーヒーでも淹れようかな。」

食器棚のお気に入りのカップの奥に
少し大きめのマグカップを見つける

「あら、こんなカップあったかしら。」

そう思いながら、手に取って眺める
涙が。。。溢れてきた
どうしてだろう
溢れた涙が止まらない

私、どうしちゃったんだろう。。。

突然、頭の中に青年の姿が浮かんだ
見知らぬ青年だった
でも、なんだかとても懐かしくて
愛おしく思えてしかたがない

あなたはいったい誰なの?

結局。。。
その青年が誰だったのかはわからないまま

私は、お気に入りのカップと
その少し大きめのマグカップに
2人分のコーヒーを淹れた

そうせずにはいられなかった
MB900250759.JPG
かあさん。。。

ふと。。。そう呼ばれた気がした
       
               おしまい
 
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雪うさぎ~そして、最終章へ~ [ちょっと長めの物語]

最終章をお読みいただくにあたって
まずは。。。このお話のご説明をば。。。

実は、このお話の最終章は。。。
ソネットブログを始めて間もない頃に載せた記事へと続くのです

それは、このブログで初めて載せた小さなお話。。。『雪うさぎ』

気づいたら
ソネットブログを始めて
いつのまにか2年が経っていて
もうそんなになるのかなぁ。。。
なんて思って以前の記事を読み返していたら
こんな企画を思いつきました。。。

名付けて。。。

最初に載せた小さい物語を
でっかくしちゃおう!!!企画
(なんじゃそれ。。。)

長かったこのお話。。。
一章
二章
三章と読んでくださった方、ありがとう。。。

そして、物語はいよいよ最終章

このお話のエピローグは
このブログでの小説の原点

初の小説投稿の記事で終わることになります

それが。。。この長いお話の
最大のオチといっても過言ではありません(笑)

もともとの「雪うさぎ」と上手く繋がっていたでしょうか。。。
繋がっていなかったら
そこは。。。
読者のみなさまの
たくましい想像力で
どうか、補ってやってくださいませ。。。

長い間、お付き合いいただいて
本当にありがとうございました。。。

また、くだらないことを思いついて。。。
と呆れられているかもしれませんね

(´Д`;)ヾ ドウモスミマセン

思いついたら。。。書いてしまうので。。。
許してね!!!

では。。。そろそろ最終章と行きましょう

   これをクリックしてください
       ↓
     雪うさぎ

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雪うさぎ~第三章~ [ちょっと長めの物語]

<翔太>

春になり、雪は時々、
何かを探すように辺りを見回しては、ため息をついた。
そんな雪を見て、翔太は初めて、
雪が赤い目の理由を知らない事に気付いた。

すぐに、教えてあげなければ・・・と翔太は思った。
冬を待てば、また道が見えるようになって
うさぎの里へ帰る事が出来る。
それを知れば、雪は元気になるだろう。
でもそれは、冬がくれば雪との別れがやって来ると言う事だった。
雪と離れたくはなかった。
いっそ雪と一緒にうさぎの里へ行けたら、どんなにいいだろう。
しかし、翔太もここを離れられない理由があった。

翔太には、病気の母がいた。
母を一人おいて、うさぎの里へ行く事は出来ない。

でも。。。このままでいいはずがないよな。

翔太は、心を決めた。

「雪ちゃん。話があるんだけど・・・。」

ついに、雪に切り出した。
    
s-0015.png
<雪>

「私も翔太さんに話があるの。」
 
雪はこの数日、ずっと考えていることがあった。
うさぎの里に帰れなくなった今、頼りになるのは翔太しかいなかった。
何より、雪は翔太がとても好きになっていた。
人間の世界には、結婚という制度があるらしい。
うさぎの里では、好きになればその日からただ一緒にくらせばよかったが、
ここでは手続きが必要だという。

それならば、翔太と結婚できないだろうか。
うさぎの里へ帰る道はゆっくり探していけばいい。
それが、雪の結論だった。
もちろん、翔太さえよければの話だが。


s-0015.png

<翔太>
「翔太さん。私と結婚して頂けませんか?」

雪の突然のプロポーズに、翔太は面食らった。
赤い目の理由を教えようとしていた翔太だったが、
雪の言葉ですべてが吹っ飛んだ。

「もちろん、OKです。」

思わず、そう答えた。
そして、雪と離れたくないという気持ちが、
翔太の口を塞いでしまった。

雪との結婚生活は楽しかった。
例え、その幸せに罪悪感が張り付いていたとしても、
翔太は少しでも長く雪と一緒に暮せる事を祈った。
だから、雪の少ない地方への転勤が決った時、正直、ほっとした。

それでも、雪は降ってしまった。
翔太は、雪との別れを覚悟した。
でも、雪は帰らなかった。生まれたばかりの娘と3人で、
翔太は家族というものを少しずつ築き上げていった。

それから、3年程経った頃、翔太の母が亡くなった。

その時、翔太は決心した。
もし、雪がうさぎの里へ帰りたいというのなら、
自分が向こうに住もう。

家族が一緒に暮らせるならば、
どこに居ても幸せになれる。

卯龍じぃちゃんのように・・・。
    
s-0015.png

<雪>
雪は、自分が元うさぎであることを翔太に隠し続けた。
不安定な幸せを守りながら、凛という可愛い娘を授かった。
凛が生まれて、初めての冬、この辺りでは珍しく雪が降った。
凛をあやしなから、雪は久しぶりの白い雪を見つめた。
そこで見つけたものは、懐かしい故郷への帰り道だった。

そうか。そういう事か。

その時、すべてを悟った。
雪は赤い目の理由を知った。
冬になり、雪が降る度に、雪の目は赤くなった。
翔太には、雪アレルギーだという事にした。
何の疑いも持たずに、彼は信じてくれた。
嘘をつく事はとても辛かったが、真実を話すのは怖かった。

雪はこの幸せを手放したくは無かった。

もう少し凛が大きくなったら、一度里帰りをしようと雪は思っていた。
父との約束を破るわけにはいかない。
でも、父の顔を見たら、すぐに人間の世界に戻るつもりでいた。
ここには、甘くて美味しいあんみつがある。
翔太と初めて出会った日の、大切な大切な思い出の味。

それは雪にとって、決して失いたくは無い「初恋の味」だった。
image92.gif 
                       
                               つづく。。。

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雪うさぎ~第二章~<雪のお話> [ちょっと長めの物語]

今年も、雪祭りの日がやってきた。

みんな、朝から祭りの準備に追われている。
雪は、祭りの準備を少しだけ抜け出して、里のはずれに来ていた。
この場所に来るのが、雪は好きだった。
この向こうに人間の世界がある。そう思うとたまらなくわくわくする。

雪の人間好きは、里のみんなが知っている。
雪はいずれ、人間の姿になると誰もが思っていた。
このうさぎの里では、よくそういう事がおこる。
もし人間の姿になれたら、
絶対、人間の世界を見に行こうと雪は考えていた。
でも、その日がいつになるのかは、雪自身にもわからなかった。

家に帰ると、父がお祭り用の人参を洗っていた。

「おとうさん、ただいま。」

そう声をかけると、父が振り向く。

「雪、おまえ・・・。とうとう・・・。」

父の驚いた様子をみて、
雪は初めて自分が人間の姿に変わっている事に気がついた。

やった!!!これで、人間の世界を見に行けるわ。

すぐにでも出発したい気分だったが、今日は雪祭りだ。
大相撲大会がある。雪は、相撲が強かった。
里では、「雪うさぎ」という四股名(しこな)を貰っていた。
うさぎの意味を持つ字が入る四股名(しこな)は、滅多な事では貰えない。
昔、卯龍(うりゅう)という伝説の力士がいたらしいが、
それ以降は雪が初めてだった。
大相撲大会には出場したかった。
出発を明日に延ばす事にした。

その日の大相撲大会で、雪はまたもや優勝した。
人間の姿に変わっても、雪の強さは変わらなかったらしい。
雪祭りは、明け方近くまで続いた。
雪は、思い切り祭りを楽しんだ。
    
  ○  ○  ○

「おとうさん、しばらく、人間の世界に行ってきます。」

次の日、雪は父にそう言った。

「お前のことじゃ、止めてもきかんじゃろ。
 ただ、一つだけ約束してくれんか。
 必ず帰ってくると・・・。」

父は、もう諦めているといった表情だ。

「もちろん、必ず帰ってきます。」

雪はこのうさぎの里が好きだった。
仲間も沢山いる。
暫く人間の世界を見学したら、帰ってくるつもりでいた。

「気をつけていけよ、雪うさぎ」

気のせいか、父が少し小さくみえた。

雪が出発したすぐ後、雪の家に長老がやって来る。

「雪うさぎ、もう行ってしまったのか。
 雪が降っている間しか、帰り道が見えんことを
 伝えたかったんじゃが・・・」
   
s-0015.png

その頃、雪はもう人間の世界にいた。
何もかもが美しい。
すべてがきらきら光って見える。
ショーウィンドウに並ぶ可愛らしいアクセサリー。

どこからか流れてくる美味しそうな匂い。

素敵、素敵、素敵。

雪は、心の中でそう繰り返して叫んでいた。
やがて、夜がやって来た。
暗くなるどころかあちらこちらに灯りがともり、
かえって眩しくなったように思える。

まるで、夢の中にいるみたい。

きらきらと光るネオンの中を雪は歩いた。
ひとつだけ、困った事があった。
人間の世界では、何をするにもお金というものが必要らしい。
雪のお腹がくぅーと鳴る。

見知らぬ男が話しかけてきた。

「あの、今夜は冷えますね。
 よろしかったらあんみつでも食べに行きませんか。」

その人は、とても優しい感じがした。
でも、あんみつって何だろう。
今まで食べた事どころか、聞いた事も無い。

「あんみつって何ですか?」

雪は思わず、聞いてしまった。
もしかしたら、可笑しな質問だったかもしれない。
しかし、その人は丁寧に答えてくれた。
そして、一緒にあんみつを食べに行く事になった。
不思議と不安は無い。

もしも何かあった時は、投げ飛ばせばいい。。。

そう、雪は思っていた。
その人はどう見ても強そうなタイプではなかったし
それにまだ、うさぎの里へは帰りたくなかった。
何より雪には、他に行くあてもなかったから。

その人は、翔太という名前だった。
そして、初めて食べたあんみつは、この世のものとは思えないほど美味しかった。

お母さんの手作り人参スティックよりも
美味しいものを食べたのは、生まれて初めて!!!

人間の世界に来てよかったと雪は心から思った。

翔太は、雪の知らない人間の世界の話を色々教えてくれた。
あんみつを頬張りながら話を聞いていると
不思議なくらい幸せな気分になった。
次の日も、その次の日も、
翔太は雪を色々なところへ案内してくれた。
いつの間にか、雪は翔太に恋をしていた。

雪にとって、初恋だった。

うさぎの里へ戻る日を一日延ばしにしているうちに、季節はとうとう春になった。
里へ帰る道が見えなくなった事に気が付いたのは、桜の花が咲く頃だ。
毎日が楽しすぎて、すっかり帰ることを忘れていた雪も、
さすがに父との約束が気になり始めた。
きっとすごく心配している事だろう。

一度帰って、また戻ってこよう・・・。

そう思って雪は、うさぎの里への帰り道を探した。
しかし、帰り道は見つからなかった。

なぜ?この間まであんなにはっきりと見えていたのに・・・。

雪は、その時まだ知らなかった。
雪が止んでしまうとその道は見えなくなってしまう事を・・・。

つづく。。。
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雪うさぎ~第一章~<卯龍(うりゅう)のお話> [ちょっと長めの物語]

「じぃちゃん、また雪が降ってきたよ。
今年はよく降るね。じぃちゃんの目、
ずっと真っ赤だけど、大丈夫?」
 
卯龍(うりゅう)じぃちゃんの目は、雪が降り始めると真っ赤になる。
強い紫外線にアレルギー反応を起こすそうだ。
学校で飼っているうさぎのぴょん太とおんなじ目だと翔太は思っていた。
 
「心配せんでいいさ。痛くも痒くもないのじゃから・・・。
 翔太は、雪が好きか?」
 
「うん。好きだよ。」
 
翔太は雪が大好きだった。
友達の多くは、大きくなったら都会へ出る事を望んでいるが、
翔太はずっとここで暮らしたいと思っている。
雪の無い冬なんて、絶対に嫌だった。
 
「わしもじゃ。わしが育った里も雪が深かった。
 良い所じゃった・・・。」

卯龍じぃちゃんの言葉に、翔太は少し驚いた。
卯龍じぃちゃんはこの村の出身だとばかり思っていたのだ。
でも、どうやら違うらしい。

「じぃちゃんの故郷ってどこ?」

翔太は聞いてみた。
 
「わしの故郷はな、うさぎの里というところじゃ。
 ・・・と言っても地図にはのっとらん。
 わしの赤い目には、帰り道が見える。
 この目が赤い時だけ見える不思議な道じゃ。
 ばぁさんとここに住むようになって、一度も帰ったことはないがの。」
 
卯龍じぃちゃんは、嘘や冗談を言うタイプの人ではない。
それは、ずっと一緒に暮らしている翔太が一番良く知っている。
でも、そんな事ってあるんだろうか。
 
「じぃちゃん、うさぎの里へ行く道は、僕には見えないの?」
 
「残念じゃが、翔太には見えやしまい。
 もっとも見えんでも迷いこむ人間は、時々おったが・・・。
 ばぁさんのようにな。」
 
「えっ。ばぁちゃんは、うさぎの里へ行った事があるの?
 ねぇ、じぃちゃん。もっと詳しく聞かせてよ。うさぎの里の話・・・。」
 
卯龍(うりゅう)じぃちゃんは暫く黙って、
窓の外の雪景色をじっと見つめていた。
そして、とてもゆっくりとした口調で話を始めた。
   
s-0015.png
MB900222593.JPG
「卯龍、卯龍はいるか?」
 
祭りの準備をしていた卯龍の所に、長老がやって来た。
 
「長老、またですか?」
 
「すまんの。いつもの通り、上手く送り返してくれ。頼んだぞ。」
 
長老は、それだけ言って帰っていった。仕方が無い。
この里に迷い込んできた人間を送り返すのは、わしの仕事じゃ。
祭りの準備を後に回して、卯龍は里のはずれに向かった。
 
卯龍の母は、人間だった。
父は、ここのうさぎらしかったが、
卯龍がまだ赤ん坊の頃に亡くなってしまった。
だから卯龍には、父の記憶が無い。
人間である母が、なんでここに来たのかも詳しくは知らない。
母は、そんな話をしなかったし、卯龍も聞かなかった。
そのまま、昨年母も亡くなり、
この里で人の姿をしているのは、卯龍一人だけになった。
けれど、卯龍はそのことで、嫌な思いをした事はなかった。
ここのうさぎ達は、見た目など気にしない。差別されることも無かった。
 
このうさぎの里では、年に一度、雪祭りが行われる。
その祭りのメインイベントはやはり、大相撲大会だ。
里のうさぎはみんな、この大相撲大会で優勝することを目指していた。
その大相撲大会で、この5年、卯龍は優勝し続けている。
この里で、卯龍を尊敬しない者はいなかった。

今日は、その雪祭りの日だ。

早いとこ、人間を送り返して戻らんといかんな・・・。

卯龍の心の中はもう、祭りの事で一杯だった。
 

その女は、とてもきれいな瞳をしていた。
きょろきょろとよく動くその瞳は、
迷って困っているというより、何かを探しているように見えた。
 
「道に迷われたのか?」
 
卯龍は女に声をかけた。
女は少し驚いた様子で卯龍を見つめた。
そして、とても嬉しそうに微笑んだかと思うと、静かにこう言った。
 
「あなたは、うさぎの里の方ですね。」
 
卯龍は、心臓が口から飛び出そうなくらい驚いた。
なんで、人間がうさぎの里の事を知っているんだ?
どうして、わしがうさぎの里の者だとわかったんじゃ?
頭の中で次々と浮かぶ疑問に、卯龍は言葉を失った。
 
「その真っ赤な目、おばあちゃんの話のとおりだわ・・・。
 私の祖母は子供の頃、うさぎの里に迷いこんだ事があるんです。
 お願いです。私をうさぎの里に連れて行ってもらえませんか?」
 
思わぬ展開に、卯龍は迷った。
でも、人間を里に連れて行ってはいけないなんて決まりはないはずだ。

・・・たぶん。
 
「じゃあ、まずは長老の所に案内しようか。
 えっと・・・、名前は?」
 
「花です。花と申します。」
 
「わしは、卯龍。一つ言っておくが、
 ここの里の者は、見た目が花さんと違っているんじゃが・・・。」
 
「うさぎ・・・なんですよね。
 それと、あなたのように赤い目をもった人にも、祖母はあったそうです。」
 
まぁ、そんな事もあるじゃろう。と卯龍は思った。
うさぎの里は、そういう場所だ。姿形が変わる事さえ、時々おこる。
 
卯龍は、その花という娘と共に、長老の家へ向かった。
    
  ○  ○  ○
 
「よう、いらっしゃった。」

花を見るなり、長老は言った。
卯龍は少し拍子抜けをした。
もしかしたら、叱られるかもしれないと覚悟をしていたのだ。
 
「はじめまして、花と申します。
 ふもとの村で、あんみつ屋をしております。
 祖母が昔、ここへ迷い込んだ事があるそうです。
 その話を聞いてから、ずっと来てみたかった。
 やっと来られたんですね。」
 
そう、花は話した。
卯龍は、あんみつとは何か気になった。
 
「あんみつって何じゃ?」
 
「あっ、ここには無い食べ物かもしれません。
 甘くてすごく美味しいんですよ。」
 
あんみつというものを食べてみたいと卯龍は思った。
と同時に、人間の世界に行ってみたいという想いが心の片隅に生まれた。
 
「今日はちょうど雪祭り。ゆっくりしていってくだされ。」
 
長老は、花にそういうと、卯龍に里の案内役を申し付けた。
卯龍と花は、雪祭りが行われている里の広場へ向かった。
歩きながら、卯龍は人間の世界の話を随分と聞いた。
人間の食べ物や流行の話はとても楽しかったし、
何よりそれを話してくれる花の笑顔が素敵に思えた。
 
広場では、祭りがすでに始まっていた。
笛と太鼓の賑やかな音がする。 

「みなさん、雪祭り恒例の大相撲大会が始まります。
 参加される方はお集まりください。」

 大相撲大会のアナウンスが流れる。

「花さん、少しここで待っといてもらえますか?」
 
「あっ、大相撲大会に出られるんですか。
 頑張ってくださいね。」
 
花の励ましに、卯龍は頬を赤らめた。
いつの間にか、卯龍は花に好意を感じていたのだ。
こんな気持ちは初めてだった。
その気持ちは、人間の世界への憧れと重なって膨らんでいった。
 
大相撲大会は、今年も卯龍の一人勝ちだ。
もはや、この里に敵はいない。
優勝カップを抱えて花の所に戻った。
 
「すごいです。卯龍さん、本当にすごかったです。」
 
花のほうが卯龍より興奮しているようだ。
はしゃぐ花の姿を卯龍はとても愛おしく思えた。
 
「わしも花さんと一緒に、人間の世界に行けないだろうか。」
 
気付いたときには、花にそう言っていた。
 
「・・・でも、こんな素敵な場所を離れられますか?」
 
急に真剣な顔になって、花が尋ねる。
 
「もう父も母もなくなって、ここにわしがいなくても困る者はおりません。
 わしは、出来れば花さんといたい。」
 
さっき出会ったばかりの花に、こんな気持ちを抱く自分に、
卯龍自身が一番驚いていた。

卯龍が、人間の世界へ行きたいと長老に申し出た時、長老は言った。
 
「お前が人の姿をしているのは、
 母が人間だったからじゃない。
 お前が心からうさぎの姿を望めばそうなった。
 この里にはそんな不思議な力があるのじゃ。
 でも、お前は人の姿を心の中で選んでいた。
 それは、いつか花さんと出会うためだったのかもしれんな。
 卯龍よ、人間の世界では雪が止めば、
 ここへ帰る道が見えんようになる。
 帰りたければ、冬を待つがいい。元気で暮らせよ・・・。」
    
s-0015.png

「そんな事があって、わしは、ここに住む事にしたんじゃ。」
 
「それで、人間の世界はどうだった?」
 
翔太は、卯龍じぃちゃんに尋ねた。卯龍じぃちゃんは少し笑って答えた。
 
「もちろん、幸せじゃったよ。あんみつも旨かったしなぁ。」
 

s-0015.png

あれから十五年の月日が過ぎた。
翔太は大人になり、あの時の卯龍じぃちゃんの話も忘れかけていた。

ある雪の降る夜。
会社帰りの道で翔太は、一人の女性に目を奪われた。
真っ白い肌、よく動く瞳。
そしてその目は、赤く輝いていた。

間違いない。卯龍じぃちゃんと同じ目だ。

思わず、声をかけた。

「あの、今夜は冷えますね。
 もしよろしければ、あんみつでも食べに行きませんか?」

その女性は、翔太の事を警戒する様子も無く答えた。

「あんみつって何ですか?」

翔太は彼女がうさぎの里から来たことを確信した。
卯龍じぃちゃんの話は、本当だったんだ。
そう思うと、何となく嬉しくかった。

「あんみつは、甘くて美味しい食べ物です。
 よかったらご馳走させて下さい。
 美味しいお店、知っているんですよ。」

彼女は嬉しそうに頷いた。

「申し遅れましたが、僕は翔太と言います。」

「私は、雪です。」

雪うさぎだ、と翔太は思った。

                 つづく。。。

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はじめに。。。 [ちょっと長めの物語]

いつもより少し長めのお話を
載せてみようかと思います。

何回かに分けて載せるので
お時間のある方
よろしくお付き合いくださいませ。

そういえば。。。
このブログを立ち上げて
もう、2年が過ぎていて。。。

こんなに続くとは思わなかった。。。かも(笑)

相変わらずのマイペースですが
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。。。
                        春待ち りこ
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星のかけら [ちょっと長めの物語]

流れ星のきららは
地上へ向かい出発しました

MB900083187.JPG

実は、昨日。。。
きららは天の川の大掃除をしている時
うっかり。。。赤、青、黄色の三つの星のかけらを
地上に落としてしまったのです

織姫様が言いました

「きらら。。。
 地上へ行って落とした星のかけらを
 全部集めてきてはくれないかしら。
 あの星のかけらは、年に一度
 七夕の夜にだけ天の川を渡る橋に変わる
 神様から頂いた大切なものなのです。
 あれがないと、来年の七夕は
 彦星様に会えなくなってしまうから。。。」

きららは、とても驚きました
だって。。。
それほど大切なものだったなんて
ぜんぜん知らなかったから。。。

「織姫様。。。
 僕は大変なことをしてしまったのですね。
 本当にごめんなさい。
 すぐ地上へ行って
 必ず三つの星のかけらを見つけて戻ってきます。」

「ありがとう、きらら。頼みますね。
 でも、危ないことをしてはだめですよ。
 それと、もうひとつ。。。
 私達、天の住人が
 地上にいられるのは三日間だけです。
 それを過ぎると、あなたは星のかけらになってしまいます。
 だから、たとえ全部見つからなくても
 必ず、三日のうちに戻ってきなさい。
 約束ですよ。。。」

織姫様はそう言いながら
きららの手をしっかり握りしめました

「わかりました。。。
 必ず星のかけらを見つけて
 三日のうちにここへ戻ってきます。」

きららは織姫様とそう約束をして
地上へ向かうことになったのです
MB900290344.JPG

MB900355071.JPG

きららはまず、森に降りていきました
森の中を歩いていると
地面で何やら動いています
よく見ると。。。
そこにはひな鳥が一羽。。。
上を見つめて泣いていました

「おーい、おーい、
 僕はここだよ!!!」

木の上のはるか高いところにある巣に向かって
ひな鳥が叫んでいます
けれど、その木は高すぎて
ひな鳥の声は届きません

あぁ。。。
きっと巣から落ちちゃったんだな

可哀想に思ったきららは
ひな鳥に話しかけました

「巣から落ちてしまったのかい?
 可哀想に。。。
 僕は流れ星のきらら。
 僕が君を巣まで連れて行ってあげるよ。」

「ほんとに???
 ありがとう。。。
 やった、これでお家に帰れるんだね。
 よかったぁ~。
 それにしてもひどい目にあったよ。
 昨日、空から真っ赤な何かが落ちてきて
 僕は巣から弾き飛ばされちゃったんだ。
 あれ、なんだったんだろう。。。」

「えっ?昨日???
 それってもしかしたら
 僕の落とした星のかけらかもしれない。
 とにかく確かめてみよう。
 さぁ、ひな鳥くん
 僕の背中につかまって!!!」

ひな鳥を背中に乗せたきららは
ピューッと空へ舞い上がりました
そして、木の上の巣までひとっ跳び。。。
その巣の中をそっと覗くと
ひな鳥のほかの兄弟たちの
大きく開けたお口にまぎれて
真っ赤な星のかけらが
きらりきらきらと光っていました

「あった、あった!!!
 まちがいなく僕の落とした星のかけらだ。
 まずは一つ目を見つけたぞ。
 これで残りはあと二つ。。。
 ひな鳥くん、僕がかけらを落としたせいで
 巣から落ちちゃったんだね。。。
 本当にごめんね。」

きららが深く頭を下げると
ひな鳥が言いました

「頭なんか下げないでよ。。。
 だってきららくんは僕を助けてくれたじゃない。
 君が来なければ僕はまだ
 地面の上で寂しいまんまで泣いていたもの。
 助けてくれて、ありがとう。
 早く残りのかけらも見つかるといいね。」

「ありがとう、ひな鳥くん。
 じゃあ急ぐから、僕はもう行くね。
 織姫様が待っているんだ。
 さようなら。元気でね。」

MB900356824.GIF

きららは、残りの星のかけらを探すため
また、飛び立ちました

風に乗って飛んでるうちに
一日目の夜が過ぎていきました

MB900355071.JPG

二日目の朝。。。
ザッブーンという海の音を聴きながら

この海のどこかに
星のかけらがあるかもしれない。。。
だって、こんなに広いんだもの

ときららは思っていました

海で最初に出会ったのは
くるくると可愛い目をしたイルカでした
まずはイルカに聞いてみます

「イルカくん。。。
 僕は流れ星のきらら。
 探し物をしているんだ。
 この辺に、空から何かが落ちてこなかったかなぁ。」

すると、イルカはくるくるした目を
もっとくるくるさせてこう答えました

「そう言えば。。。おととい
 ラッコくんがスゴイモノを拾ったって
 自慢していたよ。
 青くてきれいな石だった。
 僕も見せてもらったよ。」

「きっとそれは、
 僕が落した星のかけらに違いない。
 イルカくん、いろいろ教えてくれてありがとう。」

きららは、イルカとわかれて
今度はラッコを探し始めました

けれど、探しても探しても
ラッコはなかなか見つかりません

それもそのはず。。。
だって、海は
とってもとってもとぉっても広かったのです

夕暮れ近くになって
きららは、ようやくラッコを見つけだすことができました

コンコン コンコココン

ラッコがお腹の上にのせた貝を
石で割って食べていました
その石は、ラッコの手の中で
時々青くきらりきらきらと輝きます

そうです
その石こそが、きららの落とした青い星のかけらでした

「ラッコくん、はじめまして。
 僕は流れ星のきらら。
 実は、君がおととい見つけたその石のことなんだけど
 それは天の川の星のかけらでね。
 掃除をしている時、僕がうっかり
 地上に落としてしまったものなんだ。
 それがないと織姫様は彦星様に
 会えなくなってしまう。
 出来れば返してもらえると嬉しいんだけど。」

きららがそう頼んでみると
ラッコが言いました

「これは僕の宝物さ。
 この石は貝を割るのにちょうどいいんだ。
 でも、君も困ってるみたいだし。。。
 そうだ、この石の代わりを探してきてくれたら
 返してあげてもいいよ。」

「わかった。
 僕、代わりの石を探してくるから
 待っててね。」

きららは、代わりの石を探しに出かけました

山の石は。。。
重すぎてだめでした
海の近くは。。。
砂ばかりでした
川のまわりで。。。
よくやく叩きやすそうな形の石を見つけて
さっそくラッコの所へ持っていきました

「わぁー。
 これは使いやすそうだ。
 ありがとう。
 はい、君の石を返すよ。」

ラッコは快く星のかけらを返してくれました
これで残りのかけらはあと一つ

でも、代わりの石を探すのにずいぶん時間がかかってしまって
今日はもう。。。三日目
天へ帰らなくてはいけない約束の日になっていました

「よし。。。
 今日中に絶対探してみせるぞ。」

きららは呟きました


MB900355071.JPG

流れ星のきららは、風に乗り
空から三つ目の黄色い星のかけらを探していました
ずいぶん飛び続けているので
だんだん身体のあちらこちらが痛くなっています

「もう、無理かもしれない。」

日も暮れてきて、きららは半分あきらめ顔
泣き出しそうになったその時。。。

ピカッ!!!

もう暗くなりかかっているきららの周りが
一瞬、明るくなったのです

なんだろう。。。

明かりがやってきた方角に目をやると
なんと大きな光がゆっくりと回っていました

その光は。。。真っ暗な海を黄色く明るい光で
きらりきらきらと
まるでお日さまのように照らして出していました

MB900234751.GIF

「そっか。。。灯台の光なんだ。
 それにしても、なんて明るい光なのだろう。。。
 あれはもしかしたら、星のかけらかもしれない。」

そう思って、きららは灯台に向かいました
灯台の中には。。。
おじいさんが一人
窓から海を見つめて座っています

「こんばんは、おじいさん。
 僕は流れ星のきららと言います。
 この灯台の光がとても明るいので
 もしかしたら、僕の落としてしまった
 天の川の星のかけらじゃないかと思って
 探しにきました。」

そしてきららは
今まであったことをそのおじいさんに
全部話しました

おじいさんはうんうんと頷きながら
きららの話を最後まで聞いたあと
こんなことを言いました

「それは大変じゃったな。。。
 確かにこの灯台の光は、三日前に
 空から降ってきた石を使っておる。
 おまえさんは、それを探しに
 わざわざ天から来られたんじゃね。
 すぐに返してあげたいが
 困ったな。。。
 この石を持って行かれてしまうと
 たくさんの船が夜の暗闇に飲み込まれて
 迷子になってしまうんじゃ。
 前にあった明かりは小さすぎて
 何隻もの船が海の暗闇に飲まれて戻ることはなかった
 だから、この石が降ってきた時は
 神様からのプレゼントだと思ってな。
 これで安心して船を見送ることが出来ると
 喜んでいたんじゃが。。。
 しかたあるまい。この石はおまえさんのものじゃし
 おまえさんもこの石がないと困るのじゃろう。
 持ってお行き。。。
 さっ、早くしないと三日目が終わってしまう。」

おじいさんは笑っていましたが
その目はとても悲しそうに見えます

きららは迷ってしまいました
この星のかけらを持って帰らなければ
織姫様はとても悲しむに違いない
けれど。。。
この光を今なくしたら
また、沢山の船が
海の暗闇に飲みこまれてしまう

どうしよう。。。

きららが困っていると
おじいさんがこう言います

「いいんじゃよ。
 おまえさんは、優しい子じゃね。
 もともとこの石は、天のもの。
 織姫様のためにも早くこれを持っておかえり。」

そのおじいさんの優しい言葉で
きららは決心しました

「おじいさん、この星のかけらは
 この灯台に置いていきます。
 大丈夫、僕にはいい考えがありますから。」

おじいさんの目が
パッと嬉しそうに輝きました

「本当にいいのかい?
 それで、おまえさんは困らないのかい?
 あぁ。。。ありがとう。。。
 本当にありがとう。」

おじいさんはぽろぽろ涙をこぼしながら
何度もありがとうを繰り返しました


MB900355071.JPG

灯台を出て
きららは二つの星のかけらを握りしめながら
小さな丘の上に行きました

もうすぐ、地上に来て三日間が終わります

きららは、地上で出会った
ひな鳥やラッコやおじいさんのことを
思い出していました

「みんな、優しかったなぁ。
 地上は素晴らしいところだ。
 天の上ももちろん素敵なところだけど。。。」

すると、天から織姫様の声がしました

「きらら、早く戻ってきなさい。
 もうすぐ、三日目が終わりますよ。
 星のかけらはもういらないから
 今すぐ戻りなさい。」

きららはそれでも
天に帰ろうとはしませんでした

「ごめんなさい。。。織姫様。」

そう呟いた時、三日目が終わりました

その瞬間、きららの身体は輝き始めました
その光は、あっという間にきららを包み込み。。。

きららは、光になりました

赤い星のかけら。。。青い星のかけら。。。
そして。。。きららが黄色い星のかけらとなって
三色の眩しい光が辺りを照らしました

自分が黄色い星のかけらの代わりになること

それがきららの決めたことでした
きららには、選べなかったのです

おじいさんの涙も
織姫様の涙も
絶対見たくはなかったから。。。

それに
きららは案外幸せでした
だってきららは流れ星
だれかの願いを叶えるために
この世に生まれてきたのですから

三つそろった星のかけらは
まばゆい光を放ちながら
天の川に向かって
ゆっくりと飛び立っていきました。。。

MB900444989.JPG

MB900355071.JPG

織姫様は、きららが星のかけらになってしまったことを
たいそう悲しみました
そして、彦星様にお願いをして
次の年から星のかけらの橋は使わず
船で天の川を渡ることに決めました
もう同じことが決して起こらない様に。。。
二度と誰も星のかけらを探しに
地上になど行かなくて済むように。。。

そして。。。
きららのような流れ星の生き方に
心を動かされた織姫様は
人の願いを叶えたあと
星のかけらに姿を変えて
地上に落ちた流れ星たちを
ひとつひとつ拾い集めては
天の川へ連れて帰るようになったのです
いつのまにか、天の川は天界でいちばん
輝く川となりました

天の川はそんな優しい流れ星たちの
想いをのせて今日も流れているのです

MB900442116.JPG

たとえば。。。
あなたが七夕の夜に
ふと、空を見上げたとき
きらりきらきらと輝く天の川と
運がよければ
彦星様の船を見ることが出来るかもしれません

その時に
もしよかったら思い出してあげてください
だってもうあなたは知っているはずです
彦星様が橋を使わずに
船を漕いでいるその理由。。。

そして、探してみてはいかがでしょうか
そう。。。あの。。。きららの姿を

だって。。。
天の川に輝く星のかけらたちの
あの美しい輝きの中に
きららの優しい黄色い光も
きらりきらきらと
きっと輝いているはずですから。。。
MB900228398.JPG

    おしまい

ちょっと季節外れの物語かな
リハビリ用に書いてみました。。。
今年初めてのお話も
長くなりました。。。
ボチボチ行きます。(笑)

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老人と海。。。じゃなくて、星?(ちあきさんシリーズ???) [ちょっと長めの物語]

午後の優しい陽だまりの中
香りのよい紅茶を飲みながら
クッキーを食べていた。。。
MB900222544.JPG

いつも穏やかで無口な敏子さんと
ちあきさんと私。。。

ここは、私の働く
特別養護老人ホーム
何かと小さな事件の絶えない
この職場だが
こういうひとときは。。。
本当に癒される

それは、ここの入居者さんである敏子さんの
優しいほほえみのおかげだ
暖かな陽だまりの中の敏子さん
この方はきっと
幸せな人生を送ってこられたのだろう
そりゃ、若い頃は
きっといろいろなことがあったと思う

でも。。。

人生の終盤を過ごすこの場所で
こんなに穏やかに笑えるのだから
それはきっと。。。
今のこのほほえみに必要だった試練だったに違いない

……なんて

新米のヘルパーの私が
こんなことを思うのは
ちょっとエラそうかな。。。

「いつもよくしてもらって
 あなたたちには本当に感謝しているのよ。
 こんな老人の世話なんて
 面倒でしょ。。。
 本当にごめんなさいね。」

敏子さんが言う

「面倒だなんて、そんなことないです。
 これは、私たちの仕事ですし。。。
 それにご老人の介護するのは
 若者の義務でもあります。
 助け合うのは、当たり前のことだから。
 私達も何か困ったときには
 目上の方の知恵をお借りします。
 もちろん、敏子さんのことも
 頼りにしてますよ。
 だから、そんなにお気になさらないでくださいね。」

どうだ!!!
私の答えは、満点でしょ

そんな思いで
私はちあきさんをちらっと見る

ちあきさんは、何にも言わず
ただ、紅茶をゆっくりと飲んでいた

ちあきさん。。。
ここで働く先輩ヘルパーさん
この特別養護老人ホームの入居者さんのことは
たぶん、誰よりもよく知っている凄い人

私は、たくさんのことを
ちあきさんから教えてもらった
それでも、まだわからないことばかりで
時々?失敗もする
凹むことも多いけれど
何とか頑張っていられるのは
ちあきさんのおかげだ

ちあきさんがいてくれるから
ここに入って。。。まだ、日の浅い私だけど
精一杯やろうって気になる。。。のだ



「知恵だけあってもね。。。
 どうしようもないこともあるのよ。
 老人だけでは
 どうしようもない。。。
 だからね、ほっとけばいいのよ。
 ほっといてくれさえすれば
 こんなことには。。。」

突然、さっきまでにこやかだった敏子さんが
こんなことを言って、泣き出してしまった

なんで???

私、またなんか悪いこと言ったの???
敏子さんを傷つけた???

頭の中は、パニック。。。
なんと言葉をかけていいかもわからない

たすけて。。。ちあきさん!!!

いつもの困ったビーム発射
この視線をちあきさんに投げかけると
ほぼ確実に。。。私を助けてくれる

私にとって、ちあきさんはまるで。。。
スーパーマン!!!

いや。。。
スーパーウーマンだ!!!

でも、どうして。。。

敏子さんは、急に泣き出したりしたのだろう。
やっぱり私の。。。せい?


「敏子さん。。。
 よかったら、話してくださいませんか?
 敏子さんのお話。。。
 もしも、敏子さんがそのことを話してくださるほどの信頼を
 私達がいただけているのであれば。。。
 ぜひ、聞かせてください。
 もちろん、無理にとは言いませんが。。。」

ちあきさんが。。。意味深な発言をする
敏子さんに何があったっていうの???
幸せに生きて、歳をとり
穏やかに笑っているんだとばかり思ってたけど
違うの???

そっか。。。違うんだよね。。。

ちあきさんが何かあると思っているなら
そこには、絶対何かあるんだ。。。
今までだって、ずっとそうだった
今回も。。。たぶん。。。そう

敏子さんは泣くのをやめて
さっきとは打って変わったような静かな声で
ゆっくりと語り始める

「そう、それなら。。。
 信じてはもらえないかもしれない。
 でも、信じてくれなくてもいいから
 聞いてもらおうかしら。
 実はね。。。私。。。宇宙人なの。。。」

でっ。。。でたぁ~
まさかの宇宙人カミングアウト
MB900283735.GIF

ここで働き始めてから

いろんな入居者の方を見てきた
自分は。。。実は。。。

スパイだとか
大金持ちだとか
殺人鬼だとか
予知能力があるとか

多くの方は、嘘を言ってるわけではなく
本当にそうだと思い込んでいるのだ
だからいっそう、対応が難しい。。。

そうそう。。。

「シンデレラ」っていうのもあったなぁ

これは。。。
嘘のようなほんとの話だったけど。。。

まぁ、これはまた。。。
別のお話。。。ふふっ

そして、今回は。。。
宇宙人いただきました♪ハイ!!!

あからさまに否定するのは
だめだったよね

こういう場合は、まず
話を合わせるんだっけ?

「そうなんですか。。。
 敏子さんの星は、どんなところだったのですか?」

ちあきさんは、少しの動揺もなく
当たり前のようにこう聞いた

そっかそっか、さっすがだなぁ。。。

「綺麗な星だったわ。
 ここと同じように、水の惑星。
 生き物もたくさんいた。。。
 あの日までは。。。」

「あの日?」

ちあきさんが、心なしか前へ身を乗り出したように思えた

「そう。。。あの日。。。
 それは、遠い遠い星の爆発が原因。。。
 大量の放射線が私たちの星に降り注いだの。
 天文学者の計算では
 私たちの星には届かないだろうって言っていたのに
 想定外だと。。。」
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「超新星爆発?」

ちあきさんが、私の知らない四文字熟語を口走る

えっ?四文字熟語じゃない???
しかも、五文字???

まぁ。。。知らないってことに関しては同じだから
勘弁しといて。。。あははっ

「よく知ってるわね。
 まさにそのとおり。
 星には、寿命があるものね。。。
 仕方のないことだったわ。
 ともかく、私達はシェルターに避難することになったの。
 私の星では、とにかく子供と老人。。。
 体の弱い者の最優先が常識。
 若くて力のあるものは
 その避難の手助けをしてくれた。。。」

「素晴らしい星ですね。」   

私は思わずそう言った。。。
本当に理想的な星だと思ったのだ

でも、ちあきさんが
私を睨んでいるのに気が付く

あれ?
また、私。。。何か間違った???

敏子さんが、話を続ける

「素晴らしくなんかないの。
 間違っていたのよ。
 結局、若い人たちは、みんな。。。
 逃げ遅れた。。。
 強い放射線をあびて。。。
 ほぼ、即死状態ね。。。
 シェルターの中に残されたのは
 老人と。。。子供。。。
 そして、病人ばかり
 私たちの星の文明は
 地球より少しだけ進んでいたの。
 だから。。。
 放射能の除染知識も技術もあった。
 でも、実行できる体力が、誰にもなかった。
 頭だけでは、だめなのよ。。。

 そして、シェルターでの地獄のような暮らしが始まったわ。
 感染症も増えていって。。。
 もともと体の弱い者ばかりだったから
 一年もしないうちにほとんどの人が
 次々と死んでいった。 
 最後に残ったわずかな人達で話し合い
 星を捨てることにしたのよ。
 自分たちの星に似た環境の星をピックアップして
 何人かずつに分かれて
 移住することを決めた。
 幸い、シェルター自体が
 避難用の宇宙船になっていたから
 ボタン一つで宇宙に飛び出すことが可能だったの。
 私は、この地球に移住することになった。

 ここは、私の星の環境に凄く似ていて
 住みやすい場所だったわ。
 ラッキーだったわね。。。

 でも、いつも思うのよ。。。
 あの時、私達でなく
 死んでいった若者たちがシェルターに避難していれば。。。
 おそらく、私の母星は今も。。。
 にぎやかで美しく。。。
 活気にあふれた星だったろうって。。。

 そう思うたびに確信する。

 私達は、間違えたの。
 老人なんて、ほっておけば良かったのよ。。。」

敏子さんは、ここまで話すと泣き崩れた
ちあきさんは、敏子さんに近づいて
ゆっくり背中をさすりながらこう言った


「敏子さん。。。
 つらいことなのに
 話してくれて、ありがとう。。。
 とっても参考になったわ。
 もし、同じようなことがここでおこったら
 私は、絶対逃げきってみせる。
 せっかく、こんなに大切なお話
 聞かせていただけたんだから。。。」

「そうよ。。。あなたは絶対に逃げてね。
 老人なんてほっておきなさい。」

敏子さんは、顔をあげてそう答えた
ちあきさんは、頷きながらにっこり笑う

……って。。。
えっ???
逃げるの?

入居者さんを放って。。。
逃げちゃうの???

ちあきさん。。。
それって、ほんと???


MB900355075.JPG


一日の仕事が終わり
職員専用のロッカールーム。。。
私服に着替えながら
私は、ちあきさんに話しかける

「あの。。。さっきの話ですが
 入居者さんを放って逃げるんですか?」

すると、ちあきさんはケラケラ笑い出した

「逃げるわよ。。。
 でも、入居者さんもいっしょにね。
 それでも、私は逃げ遅れないから。。。

 それとも、私が逃げ遅れて死んでくとこ
 想像できる?」

「……えっ。で、出来ません。。。」

たしかに、ちあきさんが逃げ遅れるなんて。。。
ありえない。。。考えられない。。。
理由はたったひとつ

だって、ちあきさんだから!!!

「っでしょ。だったら、私はみんな助けて
 私も助かる。。。
 それにしても、勉強になったわ。
 この星で、もしもそういうことが起こった場合
 私の私的マニュアルの対処法を
 『急いで逃げる。。。』のではなく
 『相当急いで逃げる。。。』に書き換えたわ。
 念には念を。。。ということね。」


えっ、そういうことなの?

でも。。。
私はなんだか、ほっとした


「ところで、敏子さんが宇宙人だって話
 ちあきさんは、信用してるんですか?」

MB900428391.JPG

「もちろんよ。
 だって、敏子さん。。。
 血がね。。。緑色なのよ。
 前に敏子さんの擦り傷の手当てをしたとき
 気が付いてたわ。。。
 あぁ。。。地球人じゃないなって。
 でも、たいしたことじゃないから
 誰にも言ったことないけど。。。」

……。

たいしたことじゃないって
そう思うちあきさんのほうが
私にとっては宇宙的神秘。。。だ

「まぁ、私たちにとっては
 ここに入居されてる方が
 地球人だろうが宇宙人だろうが
 全く関係ないでしょ。
 一生懸命、お世話をするだけ。。。」

まったくもって。。。おっしゃるとおり。。。
ちあきさんらしい

「そうですね。。。
 私もなんだか、そんな気がしてきました。
 そっか。。。
 たいしたことじゃないですよね。。。
 ……んっ???」

う~ん。。。
やっぱり何か、違う気がする。。。

「じゃあ、お疲れ様。
また明日ね。。。」

「はい、お疲れ様です。」

私は去っていくちあきさんの
背中を見つめながら思った

ちあきさんにとっては
国も。。。星も。。。現実も。。。幻想も。。。
関係ないのだ

そんな常識を超越した世界観で
毎日を送っている。。。
頼もしき先輩

さっすが、ちあきさん。。。

そして、いつもながら。。。
また、思ってしまう

ちあきさんがいてくれるから
ここに入って。。。まだ、日の浅い私だけど
精一杯やろうって気になる。。。のだと

                  おしまい



kotori03p.png

更新、また久々になってしまいました。。。スミマセン。。。
おかげさまで
昨日、娘に看護学校の合格通知が届きました。。。

中学生の頃から、看護師志望だったので
ようやく夢に一歩近づいた。。。というところです。

これで、少しは落ち着くかなぁ。。。

以前書いた。。。ちあきさん。。。
同じ設定で、もう一本書いてみました。。。

楽しんでいただけましたでしょうか???
あまり、自信はないですけど
こちらは、楽しんで書きました!!!

これが一番、大切ですね。(。 ゝ艸・)クスクス

また、よろしくお願いいたします。。。
               
                     春待ち りこ

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スナイパー [ちょっと長めの物語]

「先生、危ない!!!」
僕は、そう叫びながら
マイヤー医師に覆いかぶさった

「チッ」

そう舌打ちをしながら
スナイパーは狙撃をあきらめ
どこかへ逃げて行く

「ありがとう。。。
 また、助けられたね
 君は、命の恩人だ。」

マイヤー医師はそう言いながら
僕の手を強く握った

「いいえ。。。
 先生は、多くの人の命を助けている。
 僕はただ、そのお手伝いをしているだけです。」

僕は、マイヤー医師の手を強く握り返す
それは、僕の本心だった。。。

マイヤー医師。。。
彼は、多くの医者が見放すような
ひどい病状のけが人や病人を
何人も治している。。。

ゴッドハンドを持つ医師だ

僕の尊敬するアリア神父も
彼に助けられた一人

もう、長くはない。。。

突然、倒れてしまったアリア神父を前に
何人の医者がそう言って首を横に振っただろう。。。
半ば、あきらめかけたころ
マイヤー医師は、やってきた

「私が、彼を助けましょう。」

マイヤー医師は、そう言って笑った
そして、その言葉通り。。。
たった一日で、アリア神父を元の元気な神父に戻してくれた
もう。。。神業としか言いようがない

だが、マイヤー医師が
神父の治療をしている時
僕は気付いてしまった

一人のスナイパーが
マイヤー医師にライフルを向けていることに。。。

僕は思わず。。。
スナイパーとマイヤー医師の間に立ちふさがった

打たれるかもしれない。。。

一瞬の不安がよぎる
けれど、スナイパーは僕に気づくと

「チッ」

と舌打ちをして。。。
どこかへ消えて行った

命を狙われていると知って
僕は、マイヤー医師を
そのままにはしておけなかった

「先生。。。
 僕に先生の護衛をさせてください。」

アリア神父の命の恩人
そして、これからも多くの命を
助けるであろうこの天才医師を
スナイパーなんかに殺させるわけにはいかない
と僕は思っていた

あれから。。。

何度、マイヤー医師は狙われただろう
もう、数えきれないくらい

その度に僕は、、、
スナイパーの前に立ちはだかった
不思議と僕には、決して引き金を引かない
なにか、理由があるのかもしれないが
それは、僕にはうかがい知れないこと

とにかく、マイヤー医師を守ることが
僕の使命だと信じていた

そう。。。
確かにそう信じ込んでいたんだ

あの日までは。。。

s-0015.png


あの日、僕は散歩の途中
偶然、あのスナイパーを見かけた

もちろん、向こうは気付いていない
僕は、スナイパーの後をつけることにした
隠れ家がわかれば、警察に届けることもできる
そう思ったのだ

スナイパーは。。。川沿いの道を
ゆっくり歩いていた

距離を置いて。。。
僕も後からついてゆく

すると、突然。。。
スナイパーは何かを見つけたらしく
慌てて川の方へ走り出した

急いで後を追う

そこで僕が見たのは
スナイパーが川で溺れている猫を
助ける姿だった

スナイパーは、悪人

何の疑いもなく
そう思ってきた
あの神様のようなマイヤー医師の命を
執拗に狙ってくるあいつは
どっからどう見ても悪人のはずだった

けれど。。。どうだ

彼は今。。。
川で溺れている猫を助けている
自ら、ずぶ濡れになりながら

それは。。。
彼にもちゃんと
暖かい心があるという証ではないのだろうか

ならば。。。

話し合えば、わかりあえるかもしれない
マイヤー医師がどれほど素晴らしい医者なのか
どれほどの命を救っているのか

それを知れば、彼だって
自分のしていることの間違いに気づくはずだ。。。

僕は、そう確信した

「ちょっと、お話をしませんか?」

助けた猫を大切そうに抱えた
ずぶ濡れのスナイパーに
僕は、話しかけていた。。。

「君か。。。
 俺も君と話したかった。。。
 たぶん、誤解があると思っているんだ。
 ここであえて、よかった。」

スナイパーが。。。そう言って笑った
その笑顔は、思いのほか。。。
優しい笑顔だった


s-0015.png

それから、30分後。。。

僕は。。。
胸から血を流して倒れていた
たぶんもう、助からないだろう

あのマイヤー医師なら
もしかしたら、治すことが出来るかもしれない

けれど。。。
それは、無理な話

なぜなら。。。
僕のこの胸に銃弾を撃ち込んだのは
まぎれもなく。。。
マイヤー医師、その人だったのだから

そう。。。

僕は、マイヤー医師に打たれた
あのスナイパーは、僕の隣に転がっている
もうたぶん。。。生きてはいまい

スナイパーは、僕に驚くべき真実を教えてくれた
それは、マイヤー医師の本当の目的

マイヤー医師は。。。実は
悪魔と契約を結んだ悪の手先だったのだ
彼が奇跡的に助けた沢山の患者たち
その人たちは生きていればやがて。。。
大量殺人を起こす人たちだった

あるものは。。。テロリストになり
あるものは。。。猟奇殺人を繰り返し
あるものは。。。
武器商人として多くの殺人兵器を売りまくる

直接的に
あるいは、間接的に
生きていれば、多くの罪を犯す人を選んで
マイヤー医師は助けてきたのだ

助ける代償として。。。
悪魔との契約をさせながら

彼は、人助けをしているふりをしながら
人類を。。。恐怖に陥れるための人材を
着々と確保していた

そんな話。。。
最初は信じられなかった
でも。。。スナイパーが言った

「嘘だと思うなら。。。
 携帯でニュースを見てみろよ。
 君のよく知る人が
 ついに契約を実行したみたいだから。」

僕は、持っていた携帯で
ニュースを見た
そこには。。。
ハイジャックされた旅客機が爆発炎上し
乗員乗客、全員死亡とのニュースが

そして、犯人として。。。
僕の尊敬するアリア神父の名前が記されていた

そんなばかな。。。

ということは。。。
僕は今まで、いったい何をしていたんだ?

どこにぶつけていいかわからない
そんな怒りがふつふつと湧きあがってくる

「っで。。。
 こんな話を知っている
 あなたは、何者?」

僕は、スナイパーに尋ねた

「俺か?
 俺は、神様に頼まれて奴を殺すために
 人間に転生してきたんだ。」

「それを今まで僕が
 邪魔してきたってことか。。。」

「君は、勇敢だったよ。。。
 君のような正義感の強い人間を
 俺には殺すことは出来なかった。
 だから言ったろ。。。誤解だって。。。
 これからは、俺に協力してくれないか?
 一緒に奴とたたかお・・・・・。」

Bon!!!

突然、鳴り響いた銃声と共にスナイパーが倒れる

振り返るとそこには、マイヤー医師が立っていた
そして。。。彼の持つ銃口は
今度は僕に向けられていた

次の瞬間。。。

僕は胸から血を流し
このザマだ。。。
間抜けな結末だな。。。

僕はいったい何をしていたんだろう
正しいと思っていたんだ
僕は、正しいことをしているって。。。


目の前には
スナイパーが助けた猫が
ミーミーと小さな声で鳴いていた

「お前だけでも助かって
 よかったな。。。」

僕はそう呟いて
静かに目を閉じた。。。


s-0015.png

「よし、準備完了。。。」

そう言いながら
愛用のライフルを肩にかつぐ

神様の依頼を受けて
スナイパーとして
僕は、転生したのだ

もちろん、ターゲットは
マイヤー医師。。。

本当は、もっと早く
マイヤー医師を始末出来るつもりでいたが
いつも。。。
護衛の青年が僕を阻止するんだ

その青年の目は
とても澄んでいて
あれは間違いなく。。。
正義の目だ

あの目を見ると
思い出す。。。
前世での僕をさ

もしかしたら
あのスナイパーも
そうだったのかもな

ふと、そんなことを思った

案外、以前は。。。
マイヤー医師の護衛をしてたとか

まさかね。。。

まっ。。。どっちにしても
あの青年の誤解は
早く解きたい。。。

僕たちの敵は
たぶん同じはずだから

「そうだよな。」

僕は、飼っている猫の頭をなでて
そう言った

この猫は。。。

あの日、スナイパーが
川から助けた猫の生まれ変わり

今では、この世でたった一匹の
僕の相棒だ

あの日と同じように
ミーミーと小さい声で
相棒は鳴いている。。。

命の恩人であるスナイパーの仇を
早くとって。。。
と言っているのかもしれない

「わかってるって。
 今日こそ必ず仕留めてやるさ。」

僕は、深く息を吸い込むと
ライフルをもう一度
しっかり肩にかつぎなおした。。。

            おしまい

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